プロジェクトの研究概要
光(電磁波)の周波数が1012(テラ)ヘルツに入ると従来のコンパクトな電子デバイスから十分な強度の光放射を室温以上の温度で得ることが困難になっている。2~20THz程度の領域では,現在開発が進んでいる量子カスケードレーザでは,単一デバイスの室温動作は困難で,2つのデバイスの出力の差周波をとったものが存在する。しかし,この出力は1mWにおよばず,この領域は『テラヘルツギャップ』とよばれる赤外線の未開拓周波数域になっている。この領域の半導体デバイス開拓はGaAsという半導体結晶を基盤に進められており,この場合,電子のエネルギーの多くが熱に変換されて,光への変換効率が極めて低いことがTHzギャップの主要因である。
我々の研究は,この熱を光に変換する技術により,THzギャップを解消しようとするものである。熱を量子論の観点からフォノン(結晶格子の振動波)として捉え,従来の電子→光ではなく,電子→格子振動波(フォノン)→光というフォノンを介する従来にない発光原理により、電流注入型の室温・高効率動作の発光デバイスを実現することを目的としている。これにより、次世代の大容量無線通信や医・薬分野の先端的分子評価技術の進展が期待される。
研究組織
研究代表:千葉大学 石谷善博
研究分担:北海道大学 石川史太郎
名城大学 岩谷素顕
JST A-STEPhttps://www.jst.go.jp/a-step/
研究プロジェクト
科学技術振興機構(JST)A-STEP産学共同 ステージI
2025年10月~2028年3月
本研究開発のシーズ
当研究室では,幅が数マイクロメートル以下の放射窓をもつ金属構造を半導体表面に持たせることにより縦光学(LO)フォノンとほぼ同じ周波数を持つ光の放射がで得られることを発見した。
GaAsでは350℃でピーク周波数8.5THz、半値幅0.35THzほどの発光線が得られた。この原理による放射はGaP, ZnO, GaN, AlN, SiCなど様々な材料で観測された。これらにより表面構造制御で一定のスペクトル制御を達成した。その原理についても解釈が進んだ。これらの探索結果をいくつかの論文で公表した。
この結果から本発光には次の特徴があることが分かった。
1)観測された放射は、LOフォノンに共鳴した発光であり,自然放出であるにもかかわらず,半導体のバンド間遷移と異なり,鋭い発光線をもつ。線幅はGaAsでは0.35THz(1.4meV)である。
2)発光の速度は1012s-1程度以上(輻射寿命が1ps程度以下)で電子系の自然放出ナノ秒~サブナノ秒に比べて非常に速い。
これらの特徴は350℃などの高温耐性がある高速な光放射であることを示し,様々な光デバイスへの応用が考えられる。
従来のデバイスの問題点は電子→LOフォノンが高効率におこることを意味し,我々のこれまでの結果からLOフォノン→光も高効率におきることを意味するため,この電子→LOフォノン→光の2ステップのプロセスは電子→光より将来の高効率なTHz波放射に適していると考えられる。
研究方針
GaAs/AlGaAs超格子における電子量子準位間遷移によりLOフォノンが生成する。LOフォノンは数マイクロメートルのコヒーレンスがあるので,上部電極で電気双極子を形成する。これによる放射を狙う。
加熱放射では、これまでにその強度決定機構など主な性質をおよそ解明してきました。今後の展開では、電流注入で放射に利用できるLOフォノンがどのくらい生成されるか、LOフォノンからのコヒーレント光の放射、輻射性のLOフォノン寿命制御と非輻射性LOフォノンの分解による寿命の制御など、デバイス構造製作に関する課題以外にも様々な課題があります。
プロジェクトの波及効果
現在行っているプロジェクトはTHz波の放射デバイスの開拓ですが,LOフォノンをTHz波に変換できるということは,電子移動度を下げる主要因であるLOフォノン(極性光学フォノン)を光として排除できることを意味します。これは,電子移動度の増加や発光効率の増加をもたらす可能性があります。
LOフォノンを研究するということを色々な観点で見てみると,その応用方法にも様々な展開が生まれる可能性があります。









